宇宙船で空を駆け、強者を狩ることに喜びを見出す最強のクリーチャー「プレデター」。
「プレデター」が登場する作品としては通算6作目となる最新作「ザ・プレデター」を観てきました!
「プレデター」シリーズらしい血みどろの残酷描写と、「リーサルウェポン」を生み出したシェーン・ブラック監督らしいブラックなコメディが悪魔合体した、実に奇妙な傑作に仕上がっていました。
以下、ネタバレを交えつつ、全体としては陽気な雰囲気に包まれた今作の根底にある問題意識がなんであったのか、また今作が今後の「プレデター」シリーズに遺したものなど考察しつつ、感想を述べていきます。
社会からはみ出した者たちの戦い
物語はアメリカ特殊部隊の凄腕スナイパーである主人公クインと、戦争で心に傷を負ってドロップアウトした軍人たち(通称「ルーニーズ」)が、プレデターと、さらにはプレデターに関する「何か」を追い求める特殊機関「スターゲイザー」の追っ手と戦っていくというものです。
とにかくキャラクターが素晴らしい。
全編にわたって呼吸するように下ネタを発する「ルーニーズ」。
終わってから振り返ってみても彼女がプレデターを追いかける理由が「好きだから。」以外見当たらない残念系美人生物博士ブラケット。
学校生活に適応できないけど概ね超ハイスペックなクインの息子ローリー。
彼らに囲まれると常識人にしか見えない凄腕スナイパーの主人公クイン。
彼らが即席チームを組んで、プレデターや人間の追手を相手に抜群のチームワークで立ち回ります。
主人公側の人間たちは皆さまざまな意味で社会や組織に適応することに失敗した人間たちです。
優秀な軍人ながら家庭生活がうまくいかない主人公クイン。
全員が戦争で何らかのPTSDを抱えている「ルーニーズ」。
物語のキーパーソンとなるクインの息子ローリーは発達障害を抱えており、大きな物音がするとパニックに陥ったり、いじめられっ子にまとわりつかれたりと、学校生活がうまく送れません。
そんな彼らが、プレデターの出現とともに戦場と化した街で、むしろ生き生きとして躍動するさまが描かれます。
ローリーは社会生活への適応は苦手ですが、人並み外れた記憶力を持ち、またプレデターの装備の操作方法を独力で解明するほどの頭脳を持ちます。
作中、「専門家の中には、発達障害は障害ではなく、進化の1ステップだという人もいる」という台詞もあります。
(事実、クライマックスにおいてプレデターはローリーこそ地球で最も優れた戦士だと判断して連れ去ろうとしています。)
地球人類がプレデターと戦うとき、通常兵器が効きにくい相手と戦うために「相手の武器を奪い、使う」ことが重要になってきます。
いうまでもなく高度な応用力、適応能力が必要になりますが、このミッションに挑むのがほかでもない、日常生活に上手く適応できない彼ら「はみ出し者」であるというのが、本作最大にして痛快な皮肉であると思います。
さらには、今作で最初に登場した「プレデター1号」もまたプレデター社会からの異端者であり、しかも人類を救うためにやってきたことが判明します。
この映画では、こういった「社会生活からはみ出さざるを得ない者たち」というモチーフが随所に現れ、「はみ出す」=「悪いこと」ではないというメッセージが読み取れます。
「社会に適応する」というのは、突出した部分を持つ人間ほど「削る」作業が求められがちであり、それがうまくできないからといって「劣等生」のレッテルを貼られてしまう人間は、アメリカにおいても未だに多いのでしょう。
優れた能力をうまく「削る」ことができず、日常生活から弾き出された人間たちが、非日常の中で活き活きと活躍できる場を見つけ、或いは死に場所をも見つける。
横溢するバイオレンスとブラックジョークの奥底に、そんな切ないファンタジーとしての側面も持っているのが今作の魅力です。
明らかになったプレデターの謎
今作の「プレデター」シリーズとしての設定上の重要な点は、「なぜプレデターには様々な容貌や種類が存在するのか」という謎への答えが提示された点でしょう。
彼らは星々をわたって狩りをしながら、もっとも優れた戦士の脊髄を摘出し、そのDNAを自らに取り込むことで、より強靭な肉体を手に入れてきたのでした。
これにより、1作目のプレデター(ジャングルハンター)と2作目のプレデター(シティーハンター)の牙の本数の違いや、「プレデターズ」におけるバーサーカーのような大型の個体と小柄な原種のような違いがなぜ発生するのか、理由がつくことになりました。
今作で最初に登場する「プレデター1号」の容貌は1作目のものと酷似しており、彼は遺伝子による身体変化を拒否していたものと考えられます。(確か牙の本数も1作目のジャングルハンターと同じだったような)
「プレデターズ」で囚われていた原種もまた似た立場の一派であり、遺伝子による強化を行うバーサーカー種族と対立していたのではないでしょうか。
彼らは「自然保護派」とでもいうべき主張の持ち主であり、「ありのまま」の自分たちを尊重して遺伝子操作による強化に反対し、また地球を住処にしようとする連中から地球を保護しようとする過激な活動家のようなものだと考えるとしっくりきます。(「ガンダムSEED」のナチュラルとコーディネーターを連想しますね)
もっとも「自然保護派」だからと言って個々の人間を愛でるような趣味はなく、あくまで「美しい快適な狩場」を守るためというところでしょうが。
「地球を守りにきたやつがなんで冒頭で人を殺しまくってるの?」という疑問がわきますが、まあそこはプレデターなんで「つい体が闘争を求めちゃって」ということなのでは……。
(そういえばプレデターさん、武器に自動反撃システムなんて使ってるのにほとんど人間に使われちゃって、セーフティ機能ガバガバすぎでは。)
気持ちのいいシークエンス満載で時間が短く感じられた!
アクション映画としてもテンポよくテキパキとこなされていくシークエンスはスピード感抜群で、大柄ながら敏捷なプレデターという設定はシリーズでもっとも表現されていたと思いました。
1作目で、スーツが重すぎるのでサルに色を塗ってジャンプさせようとしたら森の奥へ逃げられたという涙ぐましいエピソードを経て、人類はプレデターを軽々と走らせる技術を手にしたのです。
とにかく敵味方全員の動きがプロフェッショナル感に溢れた洗練された動きを見せてくれるので気持ちいいんですね。
頭は空っぽの連中だけど戦闘IQは高いというか。
捕まっていたプレデターが徒手空拳の状態から人間の武器も使って基地を壊滅する様は、ジャック・バウアーに銃が効かなかったらこうなんじゃないかと勝手に想像しました。
あの口を使って噛みつき攻撃をするのもなにげに初かな?
それと、翻訳機を使ってプレデターがとうとう「録音」ではない言葉を喋るシーンは、これまでの人類とプレデターの歴史を思うとなかなか感慨深いものがありました。
もはやプレデターを「ホラー」として描くのは難しいのではないかと、前作「プレデターズ」を見返しながら思っていましたが、今作はその回答を、「プレデター」を描く新たな切り口と可能性を見せてくれます。
プレデターの正体が次々と明らかになっていくにつれ、「未知への恐怖」は惹起しようがなくなってきた代わりに、その設定を生かした「ダークヒーロー」としてのプレデターが立ち上がってきたように思います。
ラストが完全に「アイアンマン」だったのはご愛嬌(笑)
果たして「スーツ」を使っての続編はあるのか!?
期待して次作を待ちましょう。