怪盗シネマ

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「96時間リベンジ」に見るアルバニアの「負の慣習」

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「Hulu」で「96時間リベンジ」(原題「TAKEN2」)を見ることができたので、1作目を見て面白かったのに続編を未見だったことを思い出し、さっそく見てみました。

 とにかく安定して面白い「ザ・ハリウッドアクション」という感じで、本作でもリーアム・ニーソン演じる主人公が悪党どもをほぼ一撃で屠っていきます。

リーアム・ニーソン、僕が初めて認識したのはスターウォーズ「ファントム・メナス」だったんですが、まさにナイトといった高貴さと強さを感じさせる上品な役者という印象を持ったんですが。

年齢を重ねるごとになんかワイルドさを増し、今やハリウッド最強を堂々と争える漢となってしまいました。

「熊さんみたいで可愛い」という声も巷にはあるそうですが、例えば彼がプーさんの着ぐるみを着て愛想を振りまいたとして、グリズリーの突然変異以外に見えるかは疑問です。 

リーアムファンの方、ごめんなさい。

こんなこと言ってますが、僕はリーアム好きです。

 

主人公は元CIAの凄腕で、今は要人警護などをしています。

彼は悪党どもを震え上がらせる「特殊な能力」を持っていて、要は超強くて、前作では娘をさらった悪の組織を一人で皆殺し、今作でも妻と自分を狙った組織を一人で皆殺しにします。

「イコライザー」のマッコールといい、アメリカ人は元CIAを改造人間かなにかと勘違いしている気もしないでもないですが、まあ「元CIAはすげえ強い」という共通認識はわかりやすいので、娯楽映画には使いやすい設定ですよね。

アクションもいいですが、自身が拉致されて、娘の協力で連れてこられた場所を特定する場面も見ていてワクワクしましたね。

娘に向かって「そこらへんに手りゅう弾を投げろ」とイカれた指示を飛ばすんですが、その爆発音が自身に届くまでの時間でホテルからの距離を割り出すという。

対人アクションだけでなく、変則的ながらこういう追跡劇も見ごたえがあり、また娘をドライバーに据えた「世界一おっかない路上教習」ともいうべきカーチェイスも、なんだかんだ娘がだんだん慣れてきてテクニックつけていくのが親子なんだなあとほっこりしたり。

そのまま大使館にぶっこんでいくのはちょっとロックンロールすぎますが。

 

「血の復讐」ジャクマリャ

ところで、映画の最中ずっと妙に気にかかっていたのが、敵であるアルバニア人の組織が、異様に復讐に執着しているところでした。

今作の敵は、前作でブライアンの娘をさらい、ブライアンに殺されたマルコという男の父親で、ブライアンと家族を拉致して復讐をとげようと画策します。

もちろん息子を殺された父親という立場もわかるんですが、映画冒頭で写されるトロポヤでの前作の悪党どもの集団葬儀で、女性達も含めて村ぐるみで復讐を誓っている様子が、もはや私怨という範疇を越えて、なんだか土俗的なにおいまで帯びている気がしまして。

親族とはいえ、女の子をさらって売り飛ばすような稼業をしている犯罪組織の連中ですよ。

いつどこで野垂れ死んでもおかしくない商売柄なのに、残された遺族がこうまでも一丸となって復讐にこだわるものなのかと。

で、映画が終わった後に何げなく調べてみたら、アルバニアにはとある「掟」が今なお生きているということでした。

「カヌン」と呼ばれる、アルバニア氏族に古くから伝わる、生活にまつわる事柄を細部までさだめた「掟」。

その中に、「ジャクマリャ」、「血の復讐」とか「血讐」などと呼ばれる項目があります。

内容は、「一族の人間が殺された場合、その犯人の一族の男性を復讐として殺せる」というものです。

これは「法律」ではなく、それ以前の、あくまで集団の中の「掟」なのですが、政変などにより長い間治安が不安定なアルバニアでは、この「ジャクマリャ」がまかり通り、今でも子供を含む多くの男性が復讐を恐れて隠れ住んでいる現実があるそうです。

www.afpbb.com

シリーズ通して主人公ブライアンを狙うアルバニア人組織の執念の背景には、こういった民族的な慣習の背景もあるようですね。

 

今作の主人公ブライアンと敵のアルバニア人の戦いをあらためて俯瞰してみると、どちらの動機も「家族を守るため」「家族の復讐のため」という、家族の存在が動機となった戦いです。

劇中で、ブライアンが殺した前作の悪党の父親に「娘をさらったから殺した」と言い、父親が「理由なぞ知るか!お前が息子を殺した!」と言い返すシーンがあります。

一見、敵の父親のほうが無茶苦茶で、ブライアンには正当な理由があるようにも見えますが、「自分の家族のために他人の家族を殺す」という点において両者は同レベルにあるとも言えます。

この映画で描かれているのは、正義対悪の戦いなどではなく、アルバニアにおける「血の復讐」の連鎖のような、どこまでも果てしない報復の連鎖です。

クライマックスでブライアンは、敵のボスに「もうこんなことは疲れたんだ」と、復讐の連鎖を終わらせることを提案しますが、結局はそれも裏切られ、つまるところひとつの状況が終わったに過ぎないことがわかります。

ブライアンはこの先も家族と自分を組織の復讐から守っていかなければならないし、それがまた復讐を呼ぶでしょう。

戦争が、現代においてもなお起こり、終わらないのは、つまりはこの映画のような連鎖に陥って歯止めが効かないからという部分もあるんだろうなと思います。

そういう意味で、この映画の「戦い」はとても原始的で、根源的なものであるのかもしれません。

まあ、そんな深いこと考えてみる映画でもないので、イスタンブールの街並みをバックにリーアムが悪党をちぎっていくのをポテチでもつまみながら眺めてるのが最高に楽しい作品だと思います。

「96時間リベンジ」は、今なら前作「96時間」と一緒に「Hulu」で配信してます。