怪盗シネマ

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ニュータイプの負の歴史を背負った若者たち。「ガンダムNT(ナラティブ)」

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「ガンダムNT(ナラティブ)」2018年。

吉沢俊一監督。

ヨナ:榎木淳弥、ミシェル:村中知、リタ:松浦愛弓、ゾルタン:梅原裕一郎。

1988年公開の「逆襲のシャア」のその後から始まる「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」。その中で描かれた「ラプラス事変」終結の1年後の物語。

「UC」はバナージ少年の成長物語であるとともに、ニュータイプをめぐる人類の葛藤についての物語でもあった。その直後からはじまる今作では、ニュータイプについてのより具体的、実利的な側面に注目し利用しようとする者たちが描かれる。

「UC」においては、「ニュータイプ」とは人類の宇宙時代への祈りのようなものであり、希望であるとされた。しかしニュータイプ研究所による強化人間など、ニュータイプの戦闘能力のみに着目した人々によって実験を施され、人間性の喪失や命そのものも奪われる人々の負の歴史は確かに存在した。

本作では、ニュータイプの負の歴史を背負わされて今なお苦しみながら生きる人々が、ニュータイプが希望とされた世界で過去と対峙する物語となっている。具体的には、主人公の3人、ヨナ、ミシェル、リタは幼い頃に「コロニー落とし」による被害を感知したことで「奇跡の子供たち」と呼ばれ、ニュータイプ研究所に連行されて非人間的な人体実験を繰り返された過去がある。

主人公3人の複雑な三角関係を中心に、敵役であり「赤い彗星の再来計画」の失敗作である強化人間ザナタンの来歴も含め、「ニュータイプの呪縛」に翻弄された主人公たちが過去と向き合う模様が描かれるストーリーとなっている。

ニュータイプがサイコフレームに魂を定着させる能力に着目し、これを応用すれば人類は不老不死になれるのでは、といったSF的なアイデアが提出されたり、「ニュータイプは感染する」という新たな設定が飛び出したりと、福井晴敏の考えるニュータイプは富野ガンダムが投げたニュータイプ概念をヒントに、より独自の概念となりつつあるように感じる。というか、ほとんど超能力者と変わらない。この辺の設定の扱いは熱心な富野信者、宇宙世紀信者にどう受け止められるのか気になるところだが、まあガンダムの設定があとから書き換えられていくのは今に始まったことではない。

映像としては「UC」で描かれた「リアルで重厚なモビルスーツ戦」をベースに、現在のロボットアニメとして最高峰と思われるクオリティで描かれている。コクピットにエアバッグが装備されていたり、ビームライフルがまるで長いビームサーベルのように描かれているのが「UC」の特徴だったが、そのあたりの描写は健在。

さらに今作ではユニコーン3号機「フェネクス」の到底パイロットが耐えられないはずのデタラメな機動(最高速では光速に近くなる)などが見所。

ちょっと気になったのは、サイコフレーム搭載機同士の戦闘が描かれる設定上、各機が当たり前のようにサイコフィールドを投擲武器として投げ合うのだが、この原理不明の魔法か超能力のような力をバーゲンセールのように使ってしまうと、もはやロボットアニメとしてのメカニズムに対する設定考証はあまり意味をなさなくなってしまうのでは、とチラッと思いもした。やってることはドラゴンボールの気弾の投げ合いなので。

ラスボスもまたネオジオングなので、その辺もちょっと新鮮味に欠け、敵であるザナタンもよくいるコンプレックスこじらせ系イカレ男といった感じで、フルフロンタルなどに比べても格が一枚落ちる感が否めない。

良くも悪くも「UC」で創出したメカ設定をいじり倒したような作品。

あと個人的にはミシェルが新たなガンダムクソヒロイン列伝に名を連ねてしまうのではと危惧している。

しかし久々の1話完結のガンダム劇場作品(F91以来?)として、ミニマムな人間関係の物語を軸として戦闘シーン中心の作劇で2時間でしっかりまとめあげた監督と脚本の力量は本物。ガンダム好き、「UC」好き、ロボアニメ好きは必見の作品となっている。

「あいつ」も出るよ!

(ちなみに、スタッフロール後にもお楽しみがあるので、これからご覧になる方は最後まで見ることをおすすめします)