怪盗シネマ

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「gifted/ギフテッド」少女の未来をめぐる答えのない争い

「gifted/ギフテッド」(「gifted」)、2017年、アメリカ。

マーク・ウェブ監督。

クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、リンゼイ・ダンカン他。

数学の才能に恵まれるも自殺した母親を持ち、自身も数学の圧倒的な才能(ギフテッド)を持つ7歳の少女メアリーと、親代わりとなって少女を育てる叔父フランクの生活を描く。「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのマーク・ウェブ監督。「キャプテン・アメリカ」のクリス・エヴァンス主演。マッケナ・グレイスのませた天才っぽさと年齢相応の無邪気さを同居させた演技が素晴らしい。あと睫毛がめっちゃ長い。片目猫のフレッドが可愛い(脚本家の猫らしい)。

メアリーにとって最も「利益」になる生活とは何かをめぐり、叔父フランクと祖母エヴリンが対立する。フランクは亡き姉の意志をくんでメアリーを才能に関係なく「普通」に暮らさせることを選び、祖母エヴリンは母親と同様にその才能を最大限に伸ばすべきと考える。

ここで投げかけられる問いは、大人は本当に子どものこと「だけ」を考えて子供の生活を考えているのだろうか、という問いだ。祖母エヴリンは「優れた才能は人類の宝であり、貴重な資源であり、親子の関係を越えて責任を持つ」という信念をもって娘ダイアンに英才教育を施した。その結果としてダイアンは恋人や普通の生活を失い、あげく自殺に至った。メアリーに母親と同じ才能があると知ったエヴリンは、やはり同じように英才教育を与えることが義務だと考える。しかしエヴリンは自身が数学研究者を目指しながら挫折して結婚生活を送った過去もあり、その夢を娘や孫に託そうとしている節もある。彼女の場合、「人類への責任」という厳格な信念と「自分自身のエゴを満たす」というおそらく無意識の目的が混じりあってしまっている。

この映画の「大人」なところだが、そんなエヴリンが息子をだまし討ちのようにしてでもメアリーを奪いとろうとし、逆にフランクによって知らされたダイアンに関する衝撃の事実に打ちのめされてもなお、エヴリンのすべてを否定することはなく、誰も憎みあわないラストを用意している。メアリーにとって本当に大事な生活とは何なのか、という正解の無い問いに、それでも少しずつ答えを探っていくというラストになっている。

決して派手さはないし、シナリオも収まるべきところに収まる予定調和的な物語ではあるが、扱うテーマは普遍的で、特に小さな子供の育児中の人々には刺さる映画なのでは。フランクの、決して甘やかしすぎはしないが、メアリーにしっかり向き合い、元哲学者らしく一つ一つの問いに逃げることなく答えていく姿勢はひとつの理想の親の姿なのでは。こういう親はかっこいい。

ところで、この映画に出てくる「ミレニアム懸賞問題」、有名な話なので知っている人は知っているだろうが、劇中で大学(?)の柱に7つの問題が飾られ、「ポアンカレ予想」だけに解答者の写真が貼られているセットは、「人類がようやく1人だけ倒せた7大ボス」感が凄くて大変萌えた。ああいうの好きです。

ちなみに7つのミレニアム懸賞問題とは、

「ヤンーミルズ方程式と質量ギャップ問題」

「リーマン予想」

「P≠NP予想」

「ナビエーストークス方程式の解の存在と滑らかさ」

「ホッジ予想」

「ポアンカレ予想」(解決済み)

「バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想」

の7つとのこと。劇中でダイアンが解こうとしていたのは「ナビエーストークス方程式の解の存在と滑らかさ」。SFか哲学書のタイトルみたいだ。「滑らかさ」なんて感覚的な言葉が数学の命題になるというのが不思議。