怪盗シネマ

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「新感染 ファイナルエクスプレス」

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ヨン・サンホ監督、コン・ユ、マ・ドンソク、キム・ウィソン他。

ゾンビ映画の「お約束」は、ちゃんと丁寧に使えば物語の完成度にしっかり貢献してくれるということを思い出させてくれるような脚本の完成度。とにかく基本に忠実に、ジャンルに淫することなく真っ向からゾンビ映画を撮っている。「シンゴジラ」に例える人がいるのもわかる。ジャンルと化した映画を、その基礎の基礎から考え直し、根源的な面白さを追及すると、「内輪受け」からは大きく脱却できるという見本になりうる映画。

いやまあ、一般受けするのが正解であるとも思わないのだが、やはり真っ当によくできてる映画は誉めるべきだと思うので。特に監督の個性が大爆発するような作劇でもなく、本当に教科書的な、いっそ凡庸とも言えるドラマなんだけど、そもそも「ゾンビ映画」というジャンルのポテンシャルがあれば人間ドラマは最低限でよく、それをよくわかって必死で抑制しているようにも見える。結果、ゾンビ映画ファンからも好評なところを見れば、この映画が本質的なところを外していないことがわかる。

 個人的に一番好きだったのは、本格的なゾンビの登場する前の場面。暴動のニュース、通行止め、遠くに見えるビル火災。日常生活の中に少しずつ兆してくる異変というのがとにかく好きで、生々しければ生々しいほどいいので、このあたりの入り方はとても好き。「ラストオブアス」の冒頭が好きな人はわかってくれるはず。ワクワクするんですよ。

あとゾンビ。あまり多くのゾンビ映画を見てきたわけではないけれど、走るゾンビは今や珍しくないというのはなんとなくわかる。しかし今作のゾンビは体制とか関節とか全く気にしない癖に猛烈に走る結果、ほとんど流体のような現象に見えるのが面白い。いくつかのシーンなんか本当に人体でできた津波にしか見えない。そういう意味でも、ホラーでもあるんだけど、ディザスタームービーの趣きがより強いのかなと思う。

過激なスプラッタ描写もほぼないので、面白い映画教えろって言われたらとりあえず名前を出せる貴重な(?)作品かと。