怪盗シネマ

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放置地雷発覚系イヤホラー「ヘレディタリー/継承」

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ミスった事案を放置して特大地雷と化し、周囲が騒ぎ出して超気まずくなること、ありますよね。

 

2018年ナンバー1に挙げる人が多いのもわかる傑作ホラーだった。

怪奇現象そのもので引っ張るのではなく、そのちょっと手前、何かが起こる予感、予兆が画面全体を覆いつくし、息がつまりそうな窮屈さを観客にも強いる。

幽霊や怪奇現象はそれが見えてしまう一歩手前、いかにも出そうな雰囲気こそ最も恐怖を煽る。そのことをとてもよくわかっている監督で、実は劇中で明らかな超常現象は数えるほどもないのだが、この作品においては現象がホンモノかヤラセかにはもはや意味がなく、その場、その状況そのものがひたすらに「イヤ」なのだ。

長兄ピーターが「やらかす」例のシーン、程度は違えど人間誰もが一度は想像するであろう「人生最悪の事故」が実際に起き、そして現実逃避に走り、母の慟哭とともに現実であることを突きつけられるまでのリアルで執拗な描写。一瞬の、しかし絶対に取返しのつかない事件をきっかけに破滅へと転がりだす家族の、虚しさと閉塞感。

この映画において、スプラッター描写や超常現象的な部分はスパイスにすぎない。どんな個人も、どんな家族も陥りうる日常の落とし穴。そこに不可解で理不尽な人間の悪意をにおわせるだけで、幽霊に頼らずとも極上の恐怖が醸成されるということを、この監督はちゃんと知っていた。

ラストには一連の出来事がとある目的に向かう陰謀であったことが示唆されるが、そこの部分を抜いたとしてもこの映画の本質的な怖さが損なわれることはないはず。むしろ悪魔うんぬんの部分は物語に因果的な整合性を求めて安心したい観客への慰めですらあるかのようである。

とにかく顔ですよ。

人間は顔でこんなにも恐怖を表現できるのだ、と言わんばかりの母親役トニ・コレットの顔芸!ただ普通にしているだけで画面そのものが歪んでいるかのように錯覚させるチャーリー役ミリー・シャピロの顔!ムロツヨシにしか見えなくともしっかりノーフューチャーな感じ出てるピーター役アレックス・ウルフのイスラム過激派ぽい顔!

とにかく閉塞感しかない箱庭的世界で家族が嫌な目にあっていくだけの映画なので、見ているこちらもひたすらへこむしかない、そんなホラーとしてひたすらに正しい傑作。

悪趣味一歩踏み込み気味なので、万人にはオススメいたしかねるし見るタイミングも選ぶけど、未だホラー映画に本気で怖がることができる、というのは嬉しくもあり。

監督アリ・アスターはこれが処女作。次作は北欧民族系ホラーが待機中とのことで、こちらも楽しみだなあ。