怪盗シネマ

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「怪盗グルーの月泥棒」に登場する「悪党銀行」は現実にも存在する!?

映画「怪盗グルーの月泥棒」において、グルーをはじめとして世界中の悪党に資金を融資する「悪党銀行」。グルーはなんとか悪党銀行から「月泥棒」計画のための資金を調達しようとプレゼンに励んでいる。

この「悪党銀行」、入口の扉に「FORMERLY LEHMAN BROTHERS」(「元リーマンブラザーズ」くらいの意味)という文字が掲げられているというブラックな小ネタがある。

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経営破綻したあとのリーマンブラザーズが悪党銀行と化したのか、ビルが使われているだけなのかは微妙なところ。

ところで、犯罪者に犯罪のための資金を融資する銀行なんていうものが、はたして現実にもあるのだろうか?

ということで、ちょっと検索をかけてみる。

「銀行 犯罪 融資」「銀行 テロリスト」などのワードで検索してみるが、残念ながらというか、当然というか、犯罪者のための銀行があるなんていう情報はちょっとググったくらいじゃ教えてくれない。

しかしながら、銀行と悪党や犯罪は全くの無縁で、世の中の銀行はすべて正しいことにだけお金をだしているのかといえば、答えはたぶんノーだ。

銀行や金融の歴史を見てみれば、様々な国で銀行の不正や悪行が摘発されてきたことがわかる。特に銀行と絡めて語られるのが「資金洗浄(マネーロンダリング)」だ。「悪党銀行」のように直接犯罪者に犯罪のための資金を融資するというのとは違うが、不正な手段で得たお金を、その銀行を通して不正な内部処理をすることで出所や本来の持ち主を隠し、収益の発覚を防ぐ立派な犯罪である。麻薬密売、武器取引、詐欺などの様々な犯罪の収益が手を変え品を変え、今も「洗浄」されて世界を流通しているという。

ところが、もうマネロンどころじゃない、とんでもないスケールの犯罪に関わった「銀行」が一昔前まで普通に営業していたということを、20代くらいの人は知らない人も多いのではないだろうか。(かくいう筆者は30代だが全く知らなかった)

その銀行の名は「BCCI(バンク・オブ・クレジット・アンド・コマース・インターナショナル)」日本名「国際商業信用銀行」である。詐欺まがいの買収劇、粉飾決算、あげくの果てにはテロリストの武器取引への関与、各国情報機関への非合法活動への協力、自前の特殊部隊を抱え裏切者を抹殺、などなど不正と犯罪に邁進し、ついた二つ名が「犯罪銀行」

まさに現実の「悪党銀行」と言えるのはこのBCCIであろうと思う。以下では、かいつまんでこのBCCIが手を染めたという悪事を挙げてみる。この「BCCI事件」をざっと追うだけで、1980~90年代における世界の「裏事情」がほぼ全て概観できるのではないかと思うほど、実に多様な事件の裏に暗躍しているのがわかるだろう。それは「裏の世界史」とでもいうべき薄暗い世界の、嘘と裏切りの物語でもある。

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BCCIの設立

BCCIは、パキスタンのアガ・ハサン・アベディによって設立されたイスラム銀行である。その理念は「第三世界銀行」であり、二つの大戦が終わり東西冷戦の渦中にある欧米中心社会への挑戦であるかのような、世界唯一の「無国籍」銀行であった。

ロンドン、ケイマン諸島、ルクセンブルグを中心に、文字通り世界中に支店を広げたBCCIは、顧客の要望なら「なんでも」応える柔軟な対応で世界の預金者を取り込んでいった。

富裕層のみならず、貧しい人間、中小企業経営者の顧客にも柔軟で行き届いたサービスを提供したBCCIだったが、その柔軟性は世界の犯罪者達をも引き寄せた。BCCIは顧客がたとえ麻薬の密売人やテロリストであろうと、多くの預金と手数料を落としてくれさえすれば喜んで口座を提供し、さらには資金洗浄や資金輸送にも手を貸した。

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麻薬資金の洗浄

1980年、南米パナマに支店を開設したBCCIは、当時の独裁者マヌエル・ノリエガを顧客に迎え、ノリエガの手掛けた巨額の麻薬資金洗浄に便宜をはかった。ノリエガはコロンビアの麻薬組織メデジン・カルテルと手を組み、巨額の麻薬資金を動かしてその分け前にあずかっていた。現地のBCCI支店長アワンは「資金源は問わない」と言い、ノリエガのお抱え銀行家としてノリエガの資金洗浄に大いに貢献したらしい。

この巨大資金洗浄ルートは、米関税局によるCチェイス作戦での潜入捜査によって明るみになり、この時にBCCI関係者も告発されている。

テロリストの武器取引の仲介

顧客が何者であるかを問わないBCCIは、テロリストや闇の組織の取引利用の格好の的だった。イスラエルの情報機関モサド、国際テロリストアブ・ニダル、ヒズボラなど、

表立って資金調達や取引ができない組織がこぞってBCCIを利用した。口座を用意し、取引の場を提供し、時には仲介役を引き受けた。

アブ・ニダルをはじめ、様々な紛争地域と勢力に武器を提供した武器商人ナジュメディンもBCCIの上客だった。彼はBCCIを中心にして世界中と武器取引を行ったが、法律上の障壁などに当たるとBCCIが法の隙間や口実を見つけてルートを提供するといった様子だったらしい。

自身の内部を通る汚れた資金を洗浄するためのルートが複雑になればなるほど、多くの手数料をとれるために大歓迎であったという。

CIAにも協力

これほどの非合法組織との深い関わりが早い段階でひそかに取り沙汰されていながら、BCCIが長い間摘発もされず営業を続けてこられた理由として、米国CIAや政府上層部との関係も噂されていた。

冷戦当時、中東におけるソ連のアフガン侵攻を阻止するため、CIAは若き日のビンラディンも身をおいた武装組織ムジャヒディンに密かに武器供与を行っていた。その売却資金が、南米ニカラグアの反政府組織「コントラ」に流入したとされるスキャンダルが、いわゆる「イランゲート事件」だが、その資金ルートこそBCCIであったという。

湾岸戦争においても中東諸国の武器調達に少なからぬ役割を果たしたとされ、世界各国の情報機関も密かに利用していたとされる。

BCCIの終焉

世界各国で巨額の裏資金を動かし、巨利を貪っているかに思えたBCCIだったが、その内実は目を疑うような自転車操業だった。スタッフによる不正、無茶な貸し付けによる貸倒れなどで経営状態は穴だらけになっており、その穴を隠すために粉飾決算を行い、さらに穴が大きくなるという悲惨なループにはまっていた。その穴を埋めるために流用されていたのは株主の投資資金と、罪もない多くの顧客の預金である。

1991年、とうとう重い腰をあげたイングランド銀行がBCCIの営業停止処分を発表し、アメリカが一連の不正を告発したとき、もっとも多くを失ったのはBCCIを信用し全財産を預けていた預金者たちだった。

 

このように多くの不正や犯罪に利用され、また自ら関わってきたBCCIだったが、なぜそれほど犯罪者たちに重宝されたのだろうか。

その秘密は、BCCIが世界でも唯一の「無国籍」銀行であり、世界のどの規制当局にも担当されず、例えばある国の法に引っかかったとしても、ひっかからない別の国の支店を経由して資金を送るなど、独自の世界的ネットワークを構築したことにある。

いまやお金は世界をめぐるが、そのお金に関する法律は各国がバラバラに定めている。その間隙を縫って世界を自由に動かす仕組みを作った最初の銀行こそBCCIであり、世界はここからグローバル化社会におけるお金に関する多くの教訓を得たのである。

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ということで、

「怪盗グルー」に登場する「悪党銀行」は現実に存在するか?

という問いに対する回答は、

「少なくとも一昔前には存在した!」

という答えとなる。

現代にもこのような大規模の不正ネットワークが存在するのか、それを突き止めようとすると、BCCIを追ったジャーナリストたちのように、ある日突然謎の死をとげそうなので、ここではやめておく。