『ターミネーター:ニュー・フェイト』(『Terminator: Dark Fate』)
2019年、アメリカ。
監督:ティム・ミラー 脚本:デヴィット・S・ゴイヤー、ビリー・レイ、ジャスティン・ロードス 原作:ジェームズ・キャメロン他 製作総指揮:ジェームズ・キャメロン 音楽:ジャンキーXL 撮影:ケン・セング
出演:リンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マッケンジー・デイヴィス、ナタリア・レイエス、ガブリエル・ルナ
「ターミネーター」シリーズの時系列はかなり混乱しており、「2」以降の作品は展開が違う並行世界と化している。まずは「2」→「3」「4」の流れで、スカイネットによる「審判の日」は避けられず、ジョンがレジスタンスの指導者となる時間軸。次に「新起動」の時間軸で、サラとカイルの出会いからすでに別の世界線と化しているため、番外編と言える。また、ドラマシリーズ「サラ・コナー・クロニクル」も「2」までは世界線を共有するものの、その後は「3」「4」と「ニュー・フェイト」とは無関係のシリーズとのこと。そして今作「ニュー・フェイト」は、「2」の直接の続編となっており、「3」以降とは世界線を異にする作品である(ここが少しややこしい)。今作は「2」の「正統続編」と謳われ、その名に恥じずサラ・コナー役にリンダ・ハミルトンが再登板というサプライズで臨んでいる。というわけで、もし過去の「ターミネーター」シリーズを見たことがない、という方には、とりあえず「1」「2」という奇跡の傑作シリーズだけでも押さえておけば、次に今作を見れば物語は理解できるはずだ。
それでは、傑作「ターミネーター2」の後を受けた「正統続編」たる「ニュー・フェイト」の出来映えはどうだったのだろうか。
メガホンを撮るのは、子供時代に「ターミネーター」シリーズの薫陶を受けたというティム・ミラー。「デッドプール」シリーズの大ヒットも記憶に新しいが、もともとはCGアニメ畑の人だったらしく、今作でもVFXの使い方が非常にうまい。脚本・製作総指揮は原作者でもあるジェームズ・キャメロン御大が自ら努め、「正統続編」であるという説得力に一役買っている。出演は、主役のメキシコ人女性ダニーにナタリア・レイエス、ダニーを守るため未来から来た「強化人間」グレースにマッケンジー・デイヴィス、そして今なお闘い続ける老女戦士サラ・コナーにリンダ・ハミルトンが復帰し、シリーズのアイコンであるアーノルド・シュワルツェネッガー演じるT-800も再登場する。今作の敵である液体金属・金属骨格両立型ターミネーターREV-9にガブリエル・ルナが扮し、「2」のT-1000に劣らない不気味な笑みとアクションでダニー達を追跡する。このガブリエル・ルナのREV-9の演技がとてもいい。登場当初は学習が不十分で、人間の表情の真似がぎこちなく、不自然な笑みを顔に張り付けている感じがとてもよく出ていて非常に不気味。しかし高速で人間的なふるまいを学習していき、劇中でも目に見えて人間らしいふるまいをするようになっていくが、人の目が外れた瞬間に殺戮機械の顔に戻るのがとてもうまい。人を守って共に過ごすうちに人らしいしぐさを覚え、共感のようなものが芽生えたT-800とは対照的に、REV-9はどんなに人間らしくふるまえてもあくまで殺戮機械でしかない。決して殺気を漲らせるわけではないが、どこか理解不能な「モノ」の気配が随所に見え隠れする。
・「2」を殺して、新たに始めるという決断
今作は、「2」の直後、T-1000とは別に派遣されていたT-800によってジョン・コナーが殺されるという衝撃のシーンからスタートする。筆者は最初、これはサラの見た悪夢だと思っていて、現実の出来事としてその後の話が始まるとかなり混乱した(存在するはずのない、若いサラと当時のままのジョンの新作カットという映像を見せつけられた混乱もある。とてもCG映像とは思えなかった)。
実質的に「2」の物語でのジョンとサラの勝ち取った結果をナシにしてしまうような衝撃的な舵取りとなるわけだが、そうまでして描きたかった「続編」とはどんなものであったか?
「ニュー・フェイト」は、お話の構造としては「1」と非常によく似ている。もちろん意図してのことと思うが、未来から送り込まれたターミネーターと、ターゲットを守るため送り込まれた未来の戦士、という構図が繰り返さることになった。今回送り込まれた人類側の戦士グレースは、半人間半機械ともいうべき「強化人間」であるが、メンタリティは完全に人間であるため、やはり「1」のカイルの立ち位置が最も近い。最大の共通点は、未来において自分を救ってくれた人間を、過去で救うためにやってきたという点。「ニュー・フェイト」は、ほぼそのまま「1」におけるサラとカイルの物語なのだ。では「1」との違いは何か。最大の違いは、「1」「2」で得たレガシーを活用している点だろう。具体的に言えば、サラとT‐800の存在だ。「ニュー・フェイト」は決して「1」のリメイクではなく、あくまで同一時間軸にある「続編」であるという最大の証明が、この二人のレジェンドキャラクターなのだ。「1」では、絶望的な逃走劇の緊迫感と、その中でのカイルとサラの交流が主眼となった実にシンプルな筋立てだった。今作も「1」をなぞるのならば、主人公ダニーと戦士グレースの逃走劇と交流が主眼となるはずだったが、そこに「過去作キャラ」であるレジェンドが登場し活躍する、というワクワク感をどうプラスしていくか、というのが今作最大の課題となったはずだし、この作品の存在意義でもあるはずだ。
結果として言えば、今作のその2つの要素、「ダニーとグレースの逃走劇と交流」「サラとT‐800の登場と活躍」は、レジェンド2人が主役のルーキー2人を食ってしまうことになった。少なくとも筆者に残った印象はそうだった。とにかく圧倒的な安定感と存在感で画面を席巻するリンダ・ハミルトンとアーノルド・シュワルツェネッガーを目にして、逃走劇に緊張感は抱きにくい。またこの二人の挿話にも時間が割かれることによって、ダニーとグレースについて掘り下げる尺が相当食われてしまっているように感じた。この作品は、敵ターミネーターREV-9も含めれば、計5人もの主要キャラクターが登場し、3時間の枠内でそれぞれのドラマを万遍なく語ろうとする。その結果として、よく言えば全体としてはよくまとまった、しかし悪く言えば結局何がしたかったのかぼんやりとしてしまう、そういうドラマになってしまっていたように思う。「敵からの逃走」という相当シンプルな筋立てであり、またシリーズが苦しんできた「1」「2」の呪縛に、あえてプロットを酷似させて正面からぶち当たる、という意気は気持ちいいのだが、そのために「2」を殺し、しかも過去作を活用しすぎたがために新たな2人の物語に徹しきれなかった、という点がとても残念だ。
しかしながら、アクション映画としての映像的な野心はすさまじく、これはぜひブルーレイでレンタルなどして是非メイキングを見てほしいのだが、特に空中の輸送機内での無重力アクション、そこから連続する落下中の車でのアクション、さらに着水した水中での攻防と、ほとんど通常の撮影が不可能なシチュエーションの連続を超巨大セットと超緻密なVFXで実現していく様は、これひとつで1本のドキュメンタリーを作れそうな見応えだ。敵ターミネーターの液体金属と金属骨格を生かした殺陣もアイデアに溢れており、また老兵サラの熟練の銃さばきも気持ちがいい。そこにシュワの「守るターミネーター」としての無機質で献身的な戦闘が加わる。グレース、サラ、T‐800、REV-9とそれぞれのスタイルが高速でクロスする高度な戦闘シーンが展開され、異能バトルとしては非常に満足度が高い。このレベルの戦闘シーンと、絶望的な逃走劇というプロットはそもそも食い合わせるのが無理というもので、物語が豪華な戦闘シーンの割りを食ってしまったとも言える。味方が頼もしいほどホラーは怖くなくなるものだ。
今作は続編を念頭において作られ、実際にジェームズ・キャメロンの頭には次作の脚本があったらしいが、興行的に次作は難しいという話になっているらしい。ティム・ミラーの作り出したアクションはとても素晴らしいだけに、次作も期待したかったところだが、それは別作品でということになりそう。