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【ネタバレ感想】映画「キングダム」体のキレで人が死ぬ

映画「キングダム」5.29 金曜ロードショーにてノーカット地上波初放送!

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

「キングダム」(2019.日本)

初っ端から脱線するが、2006年の平成仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーカブト」を見ていた方は、作中に突然前触れもなく現れて、変身もせずに素手でガタックをボコボコに殴りだした、異常に強い敵キャラクターがいたことを覚えているだろうか?

その場面のインパクトたるや、明らかにその男だけ動きが「浮いている」印象だった。特に特別なバックボーンも由来も持たない、役柄上ではやられ役に過ぎないはずのいち怪人が、しかしただひたすら生身のまま強いのである。というか、怪人に変身すると弱くなる。

この仮面ライダーを生身で圧倒する男の名が坂口拓だと、本当に遅ればせながら知ったのが、この映画「キングダム」を見た後だった。狂気の人斬り「左慈」の、その殺陣の異常なまでのキレに既視感を覚え、思いあたったのだ。「ああ、この男はあのライダーボコボコ男だ」と。顔はいまいち覚えていないのに、殺陣のキレで思い出すなんて初めてだ。

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©石森プロ・東映


現在(2020年7月)Amazonプライム・ビデオにて見放題サービスになっている、映画「キングダム」。原泰久が現在も連載中のコミック「キングダム」の実写映画化作品だ。

中国の春秋戦国時代を舞台に、将軍への野望に燃える若者信、後に史上初の中華統一を成す始皇帝となるエイ政を軸に繰り広げられる歴史スペクタクル絵巻。

実写化にあたっては、原作者原泰久自ら脚本を起こし、原作1巻から5巻までの内容を過不足なく、そしてかなり忠実に2時間半の活劇に落とし込んでいる。

監督は「GANTS」「いぬやしき」「アイアムアヒーロー」など日本のコミック実写化を多数手がけてきた佐藤信介。

アクション監督は佐藤監督と多くの作品で手を組んできた下村勇二。ゲーマーの方には「デビルメイクライ」や「無双」シリーズのオープニングムービーのアクション監督をやっている人と言うとわかりやすいかもしれない。

キャストは、主人公の野望に燃える直情径行型剣士信に山崎賢人。信の親友漂と後の始皇帝エイ政のダブルキャストに「仮面ライダーフォーゼ」でメテオを演じた吉沢亮。「山の王」として屈強な戦士を束ねる女王楊端和に長澤まさみ。その他に橋本環奈、本郷奏太、高嶋政宏、大沢たかおなど実力派が脇を固める。

キャストについての感想は、まずやはり長澤まさみが頭一つ抜けてよかった。いい意味で本人のイメージを裏切り、屈強な山の戦士を実力で束ねる女傑としての美しさと強さをしっかり表現していた。容姿ももちろんだが、意外だったのがその声音の貫禄と通りの良さ、命令口調の響きの心地よさ。しっかり芯があってよく通り、鳥肌が立つほどかっこいい。長澤まさみに貫禄を感じる日が来るとは。個人的には、「クローズゼロ」でそれまでのイメージを覆してきた山田孝之を見た時のような驚きを感じた。

吉沢亮は近年人気が急上昇したイメージがあるが、「フォーゼ」で見せた生身のアクションを知っているのでアクションに信頼がおけるのはわかっていた。しかしながらダブルキャストを表情と声音で演じ分ける演技力、エイ政の冷徹さと孤独、内に秘めた熱情とまっすぐさをあくまでクールに演じた実力は、長澤まさみと共にやはり今作のMVPにふさわしい。

そして主人公山崎賢人だが、どうしても信としては顔の甘さがぬぐえず、周りを固めるキャスト陣が本当に違和感なく世界を作ってくれている中で、その違和感がつきまとった。しかしながら、この物語は基本的に駆け出しの信が曲者ばかりの周囲とわたりあっていくものであり、その点から見れば、実力派ぞろいのキャスト達に挑むかのような演技はたしかに主人公信であったともいえる。

その他では高嶋政宏の昌文君は本格的すぎて、他のキャラがアクロバティックに派手アクションきめてる中でひとりプライべートライアンみたいな悲壮感を漲らせていたり、たぶん唇がキャスティングの決め手になったと勝手に思っている大沢たかおの王騎将軍は少ない出番ながら作りこんでいた印象。王騎が戟を振るう無双シーン、よく見ると腋毛を処理していた(ように見えた)のは、原作ではどうだったか知らないが王騎なら処理してるよな、と謎の納得をしてしまった。

映画全体としての方向性は、贅沢な画作りながらあくまで「実写漫画」として作られており、リアリティよりは荒唐無稽でも派手さを重視する方向。コミックの世界観を実写に落としこむにあたり、あくまで実写としての画の面白さ、美しさを目指して作られている。人はワイヤーやCGでばんばん飛ぶし吹き飛ぶし、物理学的にありえない動きもする。それらに違和感がないかというとウソになるが、特にアクションのスピード感は素晴らしく、荒唐無稽ながら見入ってしまう剣劇シーンが数多くみられる。

その最たるシーンが、冒頭にも書いた坂口拓演じるラスボス「左慈」とのバトルだ。

映画『キングダム』左慈役 坂口拓 Tweet まとめ

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

そもそも原作では、左慈→ランカイという順に登場し、ラスボスの立ち位置はランカイだったのだが、映画ではランカイがまず倒され、ラストに立ちはだかるのが左慈に変更されている。その理由は見れば瞭然、左慈が、坂口拓が強すぎて、ランカイとのバトルシーンが見劣りしてしまうからだ。この順番の入れ替えは大正解だろう。ひと息で3人の喉を切り裂き、敵が一太刀入れる間に二太刀で返し、居合で巨大な柱や取り巻きの文官どもごとぶった切る。あくまで淡々とした表情で、無情に剣を振るって屈強な戦士たちを屠っていく。明らかに異質で異次元の動きのキレ。見ている我々にも、信と左慈の、そして山崎賢人と坂口拓の実力差が圧力となってのしかかり、息苦しいほどの戦闘が繰り広げられる。もちろん信はこの左慈に勝たなくてはいけないのだが、なんか勝つと嘘臭くなるのではと心配してしまう。それほど、動きが違いすぎて勝てる要素が見当たらない。最後の逆転はしっかり修行の成果を発揮して勝負を決めたので綺麗な終わり方ではあったのだが。ともあれ、改めて今後のアクション映画では坂口拓というアクション俳優を見逃してはならないだろう。というか、今まで見逃していて本当に自分のにわかぶりが身に染みた。ちゃんと映画見よう。

続編製作もはじまっている「キングダム」。坂口拓の左慈は死んだので続投は難しいだろうが、「ザ・レイド」のヤヤン・ルヒアンみたいに、1作目で死んでも別の役でまた出てきてくれないかな、と望んでしまうくらいに気に入ってしまった。

映画「キングダム」は現在(2020年7月)アマゾン・プライムビデオで見放題対象作品になっているので、未見の方は続編前に見ておくことをおすすめする。今作はコミック未読でも問題なく楽しめる物語になっている。