『ゴーストハント2 人形の檻』
著者:小野不由美
角川文庫
以下、シリーズ1巻と2巻のネタバレが含まれる内容ですのでご注意ください。
小野不由美のオカルトミステリーシリーズ「ゴーストハント」の第2巻。前巻では高校の旧校舎をめぐる不可思議な現象をめぐり、SPR(渋谷サイキックリサーチ)の渋谷一也(ナル)をはじめ、滝川法生(ぼーさん)、松崎綾子(巫女さん)、エクソシストのジョン・ブラウンといった個性的な霊能者たちがそれぞれの方法論で解決をはかり、そこに主人公である女子高生谷山麻衣が巻き込まれていく様が描かれた。1巻では、ポルターガイスト現象を巡り、それが果たして本当に超常現象であるのか、それとも現代科学で説明可能な現象なのか、というところから調査と実践(除霊)、議論を重ね、結果としてはある女子生徒がESP、つまり超能力によって引き起こした現象であったことが判明した。この1巻によって、シリーズに登場する主要なキャラクター達が紹介され、またこのシリーズが超常現象アリのXファイル的なホラーミステリーシリーズであることを読者は理解する。
この1巻を受けて、2巻ではついに本格的な霊による怪異が描かれることになる。屋敷が立ち並ぶ郊外の高級住宅街、その中の古い洋館に近年引っ越した一家が見舞われた奇妙な現象の調査依頼を受けたナルは、1巻でも見せた高級機材による緻密な科学的手法によって怪異の正体を探ろうとする。調査にはぼーさん、巫女さんこと綾子も呼ばれており、また事態の性質からエクソシストであるジョンも加わるが、かつて例のない不可思議で強力な霊のふるまいに彼らは翻弄される。次第に悪質さを増し、その本性を露わにしだす悪霊と、古くから屋敷を知る老人によって語られる、「子供を食う家」の戦慄の歴史。当初はどこかのどかさも感じられた調査は、次第に一家の子供礼美の命がかかった壮絶な戦いへと変わっていく。
今巻では早い段階でこれが霊による怪現象であると確定されるが、しかしあくまで「理詰め」によって霊の目的と正体を調査していく様が描かれるのが「ゴーストハント」の特徴だろう。現代科学が解明できない現象を引き起こす霊だが、そこには確かに彼らなりの「理屈」があり、決して出鱈目に行動を起こすわけではない。その理屈と、彼ら悪霊の目的が一体何なのか、その正体とは。これらがわかって初めて除霊は成功する。よって本作はきわめてミステリー的な手法で描かれたホラーとなっている。
調査の果てにようやくこの霊が無数の子供の霊であり、8歳くらいの子供を仲間に引き入れるために命を奪ってきたことが判明する。しかしそれだけではなく、その陰にもう一つ、邪悪な「黒幕」の存在までもが見え隠れする。これら全ての正体を解明し、礼美を救うためにナルが家の歴史をひたすら遡って調査していく様は、やはり小野不由美の傑作ホラー『残穢』の原型とも言える「土地の怪異」のモデルをはっきりと見ることができる。
当初の想像をはるかに超えるスケールと邪悪さを持つ怪異の全貌が徐々に明らかになっていく過程はホラーとして充分に恐ろしく、またそれらを丹念に解き明かしていく過程はドキュメンタリーやノンフィクションのような知的興奮にもあふれている。前作「旧校舎怪談」の結末はやや拍子抜けといった感想をもったが、それも今作を準備するためと思えば納得の出来映え。筆者は今回の文庫化で初めてシリーズに触れることになったが、夏にホラーや青春ミステリーを読みたい気分をしっかり満たしてくれるので、3巻以降の続刊も楽しみに待ちたい。