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「最低。」レビュー

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© 2017 KADOKAWA

瀬々敬久監督(「ヘブンズストーリー」「ロクヨン」)

出演:森口彩乃 佐々木心音 山田愛奈 高岡早紀 ほか。

 

人気AV女優でもあったタレント紗倉まなの小説作品「最低。」の映画化。

「AV」と関わりを持つ3人の女性の物語。一人は人気AV女優、一人は初めてAVの世界に足を踏み入れ、一人は母が昔AV女優だった。

まず正直に告白するが、今作はアマプラ特典対象になったのを見かけ、ぶっちゃけエロそうだったので見はじめました。

しかしながら、ラストにさしかかり、エンドロールに流れる歌とビルの屋上で都会を見渡す佐々木心音のしなやかな姿を見ながら、まさかこんな余韻に浸ることになるなんて、と良い意味で予想を裏切られる作品だった。

映画が一貫して描くのは、本人の漠然とした苦悩と焦燥感、そしてその家族との関係だ。

断っておきたいのは、この作品は決してAVを頭ごなしに否定するものではない。かといって決して肯定するものでもない。ただそこにある現実として、あるいは日常に行き詰った人間の逃げ場として、その他様々な理由の果てに、たしかにそこに「在る」というだけのものだ。

本作の描くAV出演はどこか自傷行為にも似ていて、承認欲求や日常からの脱却、あるいは周囲への反発や復讐が動機となっており、単純にお金が動機である女性は本作にはいない。

本作はAVを否定はしないが、そこに関わる女性の人生はどこか閉塞感にあふれて息苦しく、不安に満ちている。

今の世界において、少なくとも日本においては、まだまだAV業界は「恥」を背負わされているのが現実だろう。ユーチューバーやニコ生主が一般的になり、ネットでのライフストリーミングがごく身近になってプライベートの在り方も大きく変わりつつある昨今でも、「裸」と「セックス」はいまだ究極のプライベートであり、これをさらけ出すことは大きなリスクが伴うとされる。

母親にばれ、電話で問いただされる場面の佐々木心音の表情はあまりに真に迫っている。AVに出演することは恥ずべきことであり、今後の人生を棒に振りかねない重大な過ちであるというのが世間の認識であり常識であるとされている世界で、AV女優という職業はあまりに生きにくい。

にもかかわらず、そこには確かに女性が求める何かがあることも確かなようで、「どこか漠然とした場所から抜け出すために」彼女らはAVに出るという。

劇中の、

「おねえちゃん、どうなりたいの?」

「なりたいものにはだいたいなってる」

というやりとりが、彼女らの心をとりまく事情の複雑さ、底深さをよく表している。

「(家に)戻れるわけないじゃん!そういう仕事してるんだよ!」「でもそれがあたしの仕事だから」

この台詞が全てだろう。

周囲の目と、自分の心と、そして職業としてのプライド。

本作はAV出演者とその家族にスポットを当てた構成となっているが、その家族は決してAVという仕事に対して安易に理解を示すことはない。ただ、理解できないまま、時に取り乱しつつも、それでも当人を気づかい心配する姿勢は変わらないということも描かれている。人と人が寄り添うのに、お互いを100%理解する必要はないのではないか。

ラストシーンで寄り添う二人にも、そのメッセージは象徴されているように思う。

主演の一人の森口彩乃がめっちゃ正統派清楚系美女のビジュアルでとことん脱ぎまくるのがいっそ清々しく、AV女優という題材に向き合ったときに「じゃあ自分も脱がなきゃわからなくない?」的なプロ根性が垣間見えて凄まじい。佐々木心音がとても生々しくエロく、しかしどこか紗倉まなを思わせる風貌で、エンドロールでの屋上から都会を見渡すシーンが力強くしなやかで爽やか。

そして森口彩乃の姉役の江口のりこ、顔が怖い。怪談とか語ってませんでしたっけ?

どうでもいいけど、高岡早紀のすれっからし女っぷりは、もうあらゆる一挙手一投足が実に高岡早紀でした。

「最低。」は現在アマプラで見れます。