キャッチコピーは「19秒で悪を裁く」。
続編「イコライザー2」が絶賛公開中の、アントワン・フークア監督、デンゼル・ワシントン主演のアクション映画「イコライザー」を、ようやっと見ました。
ちょうどhuluで配信されていたので。
まさにデンゼルのための、デンゼルによるデンゼル映画。
穏やかなデンゼル、物騒なデンゼル、お茶目なデンゼル。
これほどまでに画面を占拠しながら、劇中ではしっかりマッコールとして認識させるあたり、やはりこの人の役作りは凄いんだなと。
以下の記事では、ネタバレも交えつつ、面白かったポイントを述べていきます。
ネタバレが致命的になるほどの映画ではありませんので、公開中の「イコライザー2」の予告を見て「1も見てないけどこれから見ようか迷ってる」という方にも参考になればと思います。
元CIAといえばテキパキアクション
「ジェイソン・ボーン」シリーズ鑑賞後、観客たちが早足になる現象が確認されているが(自分調べ)、「イコライザー」を見た観客はどうなるか。
・机を整理しだす
・会話相手を異常に見つめだす
・腕時計がストップウォッチ付きになる
などの変化が考えられます。
私は鑑賞翌日は動きがテキパキしました。
マッコールの、朝起きてから仕事へ行って、夕食、洗い物、眠れず読書、といった1日の流れが描かれる本作ですが、とにかくデンゼルの所作一つ一つの感染力がやばいです。
アクションもそうなんですが、日常の動作からすでに精密機械のように正確で、あらかじめ段取りを済ませた手際のよさなんですね。
とにかく動作が気持ちいい。
自分を律するあまり、周囲の人にも格言のような説教じみた台詞も吐くんですが、そういうマッコールに言われるとなんか納得してしまう。
劇中、マッコールの部屋へ突入した敵が「修道僧の部屋みたいだ」と漏らしますが、まさに彼は俗世にいながら生活全てを「修行」にしているがごとき生活ぶりです。
「ちゃんとした生活フェチ」の僕には辛抱たまらん映画なんですな(何
そしてアクション。
マッコールは元CIAの凄腕エージェントであり、今は隠遁して暮らしていますが、いざ周囲の親しい人間に悪党が手を出せば、警告を与えた上でぶち殺します。
「19秒で悪を裁く」というコピーそのまま、凄まじい体さばきであっという間に数人の悪党を制圧してしまいます。
特徴的なのは、行動に移る前に相手をじっくり観察し、その場で段取りを組んでしまう描写です。
段取りを組んだ結果「16秒か」と呟くと、振り付けの決まった踊りを踊るが如く、ほとんどアドリブを感じさせない、予定調和であるかのような動きで相手を無力化、殺してしまうのです。
この辺のアクション演出は、やはり同じく元CIAエージェントを描く「ジェイソン・ボーン」シリーズを思わせる性質のものですね。
頭で組み立てた動きをそのまま実現する、非常に計画的でアドリブを嫌う戦い方。
準備段階で勝負は決まっているという、とてもプロらしい演出です。
あまりにうまく行きすぎてリアルさはあまりありませんが、とにかくテキパキと効率よく悪党が死ぬので気持ちいいです。
ホームセンターでホームアローン
クライマックスではマッコールの職場であるホームセンターを舞台に、宿敵テディと死闘を繰り広げますが、この戦闘シーンがまたユニークです。
マッコールは基本的に武器を持ちません。
その辺を見回して、手に入るあり合わせの道具で戦います。
戦い方はほぼ全てがトラップや奇襲で、ゲリラのような戦い方をします。
こんな男相手に、ホームセンターを戦場に選んだらどうなるか。
殺しのアイデアの宝石箱やぁ……!
よくテレビでホームセンター行ってアイデア商品や使い方を紹介する番組ありますよね。
アレの殺人バージョンです。
有刺鉄線で首を吊る、電子レンジで酸素ボンベをチンする、被弾するとバーナーでドアノブを熱して止血。
かの「ホームアローン」を物騒さ増し増しで再現したかのようなトラップマスターっぷり。
ラスト、ネイルガン片手にスローモーションで姿を現わすシーンは、まさに怒れるDIYの鬼神。
鬼畜なロシアンマフィア、テディも膝まずかざるを得ないのです。
この一連のホームセンターシーンも、やはり「殺しの効率」が異様に高く、マッコールの手際のよさが光ります。
マッコールの道具の使い方はどれも即興的なアイデアに満ちているのですが、さすがに熱したハチミツを傷口に塗りこむ治療法は初めて見ましたね。
あれ治療としては常識なんでしょうか?
読んでいる本が示すマッコールの心情
マッコールは、亡き奥さんがやっていた「読むべき100冊」リスト読破を目指すという趣味を真似て、古典文学を読むことを趣味にしています。
このマッコールが読んでいる本が、場面場面におけるマッコールの立場や心境をよく表していて面白いです。
序盤、まだトラブルに首を突っ込む前にダイナーで読んでいるのは「老人と海」。
何かの理由でCIAを辞め、平穏な日常を送ってはいるけれど、戦うべき何かも、これからなりたい自分像もない。
アリーナには「なりたいものになれる」と励ましながら、しかしこの時のマッコールはそれが自分に当てはまるとは思っていないのではないでしょうか。
アリーナに「途方に暮れた目をしている」と言われたのは的を射ていたのでしょう。
「老人と海」は、無意識のうちに戦うべき相手を探し求めているマッコールの心情をよく表しています。
次に読んでいるのは「ドン・キホーテ」。
言わずと知れた、騎士道なき時代に騎士道を貫こうとした男の滑稽な物語です。
この後アリーナや同僚のために巨悪に立ち向かっていくマッコールの姿を暗示しているようですね。
あまりに滅茶苦茶な強さを持ったマッコールが、まるで古き騎士道にのっとるように弱者を救うこの映画は、やはりどこかに滑稽さを隠しています。
最後のシーンで読んでいるのがラルフ・エリソン著「見えない人」。
これ、最初は「透明人間」かと思ってたんですが、「invisible man」はラルフ・エリソンの「見えない人」のほうだそうで。
(ウェルズ「透明人間」は「The Invisible man」と、「The」がつくそうです)
僕は未読ですが、あらすじを見る限り、黒人青年が世間から無視されるのにうんざりし、地下に潜って世間を観察するというお話のようです。
困っている人間を陰ながら助けるという使命を見つけたマッコールの境遇と重なる物語ですね。
ハチャメチャな状況と、丁寧なキャラクター描写
このように、「イコライザー」は間違いなくハチャメチャなアクション娯楽映画なのですが、デンゼル・ワシントンの抑制がきいた内省的な演技や、読んでいる本などの細かい演出が効いていて、起こっている事態のリアリティよりもキャラクター描写に振り切った上でそれらを丁寧に演出するという方向性の映画になっていると思いました。
アリーナを演じるクロエ・モレッツも、世間に擦れてそうで擦れ切れない少女っぽさがいい味だしていて、「たのむ、助けてやってくれ」とつい思ってしまうんですね(笑)
おずおずとトレイを持ってマッコールに近づいていくシーンなどはとてもよかった。
少し太ったとの声もありましたが、この役柄に関してはそれが逆に「なににもなれない」と悩むティーンズ感が出ていてよかったのでは。
元々が80年代のテレビシリーズを元にした作品とのことで、シリーズの「エピソード0」といった位置づけになるんでしょうか。
とにかく様々な「気持ちいい」が合わさったアクション映画の佳作です。
僕は相当好きになりました!
現在続編「イコライザー2」が公開中なので、早く見に行きたいと思います。